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アンカー 1

挨拶にかえて

 声なき声に耳を澄ませ、語る術を持たない想いを汲み取り、依頼者の気持ちを言葉・活字にしていくこと ・・・

 それは例えば、遺言書の付言として、自らの生きた証、残される者へしたためる最後の言葉かもしれない ・・・

 そんな助産術にも似た「代書」を生業とすること ・・・  それが、古くは代書人と呼ばれた行政書士に託された

 使命なのでしょうか

 

 

◆「単なる『代筆』ではない、『代書』を生業とすることの矜持を持ってください」

令和二年一月、私が行政書士登録を受けて初めて出席した『登録証交付式』に於いて、日行連会長から贈られた言葉です。式の会場となった行政書士会館に程近い、渋谷は道玄坂辺り、華やかなビルが立ち並ぶその一角に、かつて《恋文横丁》と呼ばれた通りがありました。その小路の名は、戦後、英語の出来ない女性のために、アメリカ兵相手のラブレターを書く代書屋が軒を連ねていたことに由来し、また、この地を舞台とした丹羽文雄の小説『恋文』や、それを原作とした映画が作られたことで、いつしか広く知られるようになったそうです。しかし現在はもう、その面影はどこにもありません ・・・  ただ『恋文横丁 此処にありき』と銘まれた、往時の横丁を偲ぶ小さな碑(東京都行政書士会寄贈)が建つのみです。登録証交付式を終えた私は、代書人の本懐、行政書士の矜持とは何かを改めて考えながら、夕暮れの賑わいを見せるその横丁跡をひとり訪ねたのでした。

◆30年も前のこと、小説家を夢見た私は、敬慕する作家を多く輩出した早稲田大学で文学と哲学を学びました。余談ですが丹羽文雄は早稲田出身の小説家。「文学で人は救えるか」「人生に意味はあるか」友人と口角泡を飛ばし、侃侃諤諤と哲学論議、図書館に籠って古典を読み漁った学生生活も、遠く懐かしい思い出です。人生を知るには、先ずは地に足を着け、額に汗して働き社会の中で揉まれよう ・・・ そう心に決めて、卒業後は電気工事やビル管理など現場仕事が中心の、活字とは無縁の業種に職を求めました。それでも、いつか言葉に携わる仕事がしたい ・・・  鬱屈した思いを抱いたまま、いたずらに青春の時間は過ぎていきました。

 

◆人生に寄り添う福祉の仕事は、きっとやり甲斐があるはずと、或る人に勧められ、その後私は介護業界へ転職します。やはり活字から離れた仕事ではありましたが、介護士として10年、高齢者施設に勤務し、老いと死が身近にある日常の中で、人間の尊厳や生きることの意味を考え、己が肌身を通じて学ぶことが出来たように思います。介護の現場では多くの方を看取ります。ベッドに横たわる終末期の入居者を目の前にすると、自然と気が引き締まります。最後に言葉を交わす人間がこの私なのかもしれない、命ある今この瞬間を大切にしなければ ・・・ そんな想いで入居者と向き合い接してきました。介護は、食事、入浴、排泄の三大介助に必要な知識と技術を習得すればそれで良いという単純な労働ではありません。目配り、気配りといった細やかな観察力、想像力があって初めて、その方の自己実現へ向けた支援(意思決定支援)に繋げていくことが出来るのです。わたしたち介護士に求められるのは、その人らしい生活を利用者自らが選択できるよう介護計画を立案し、実施と評価を繰り返し行う介護過程の展開の中で、常に『アドボカシー』の視点を持つことです。アドボカシーとはつまり、自らの権利や生活上のニーズを表明することが困難な入居者に代わり、介護福祉職等の援助者が、その家族やサービス事業所、行政等へ働きかける一連の行動を指し、「権利擁護」や「代弁」などと訳される活動を言います。もちろん代書人にも欠かすことの出来ない視点ですアドボカシーの役割やその意義を、私は介護の仕事を通じて、知らず識らず、強く自覚するようになったのかも知れません。

◆さて、社会的弱者である要介護高齢者を取り巻く環境は、益々厳しい状況にあると言っていいでしょう。深刻な介護人材不足、『終の住まい』として契約した老人ホームの経営破たん、老後資金2000万円問題、不安を煽るニュースばかりです。実際に私も当事者として、その経営破たんした介護施設で働いていました。辞めていく職員を、誰も引き留めることは出来ません。入居者を守るため働き続けることを選んだ職員の雇用への不安や、入居者だけでなく混乱するその家族の様子を目の当たりにして、自分の無力を思い知らされます。介護保険制度やサービス事業者との契約内容、生活保障、入居者、その家族の権利義務、それらを一つ一つ理解し自身を守るには、法律の知識が不可欠です。『法の不知はこれを許さず』この時ほど、法律を深く学ぶ必要性を痛感したことはありませんでした。また同じ頃、私自身父親を亡くし、その死を悼む暇もないほどの手続の煩雑さに面喰い、家族と相続のことで揉めるという苦い経験も味わいました。ですが、これらの体験が、「終活」の入念な準備とリスク管理の大切さを学ぶ貴重な契機となり、同時に行政書士に求められる社会的役割の重要性を知ったのでした ・・・。

 

◆恥ずかしながら、このような紆余曲折を経て、いま、行政書士の看板を掲げ、事務所を構える自分がいる ・・・ 当時の私には思いもよらぬことです。時には痛みを伴い、人生から多くを学び、教わったこと、それぞれの節目で抱いた思いや夢、かつては点でしかなかったそれらのものが、やがて一つに繋がり、《依頼者の人生に寄り添い、言葉に携わる仕事》行政書士という生業の下で、ようやく一本の太い線となった ・・・ そんな気がしてなりません。非常に感慨深く、人生の、出会いの不可思議を感じます。

 

こうして歩んで来られたのも、ひとえに皆さまのご支援とお力添えがあったからこそと、ただただ感謝の気持ちで一杯です。また多くの方々に開業のお祝いをいただきましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。

 

未熟者ではございますが、改めて襟を正し、『人と人を、そしてその想いを繋ぐ、代書人の本懐』を忘れることなく「頼れる街の法律家」行政書士として、研鑽に努め、その重大な職責を果たしてまいりますことを、ここに固くお約束いたします。

 

当事務所では、介護・終活支援、遺言・相続相談を中心業務に据えて、皆さまのお手伝いをさせていただきます。その他のご依頼はもちろん、頂戴した仕事の大小を問わず、お一人おひとりと真摯に向き合い誠実に取り組んでまいる所存です。皆さまのご期待に沿えますよう、日々精進してまいります。どうぞ今後とも、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

 

 

 

         令和二年一月 吉日  

                                                                                                      山岸行政書士事務所  

                                                                                                          代 表  山岸 研     

 

 

 

                 ※終活:「人生の終わりのための活動」の略。人間が自らのを意識して、人生の最期を迎えるための様々な準備や、

            そこに向けた人生の総括を意味する言葉である。    (Wikipediaより)

【行政書士倫理綱領】

行政書士は、国民と行政とのきずなとして、国民の生活向上と社会の繁栄進歩に 貢献することを使命とする。

   一、行政書士は、使命に徹し、名誉を守り、国民の信頼に応える。

   二、行政書士は、国民の権利を擁護するとともに義務の履行に寄与する。

   三、行政書士は、法令会則を守り、業務に精通し、公正誠実に職務を行う。

   四、行政書士は、人格を磨き、良識と教養の陶冶を心がける。

   五、行政書士は、相互の融和をはかり、信義に反してはならない。

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